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八木華 “SEAM” 回想録 2021/4/22~5/3

八木華さんは、板金職人の父親の元、幼い子ころから伝統的なモノ作りと隣り合わせという環境で育ったそうです。美術高校に通いグラフィックデザインを学んでいたそうですが、ある時から立体作品に興味が湧き、テキスタイルで立体作品を作るようになったそう。卒業制作のときにリサーチを深める中でもファッションの写真をたくさん集める自分を発見し、ファッションを意識しだしたようです。

高校2年生の時点で、応募は思い付きだったそうですが、装苑賞でファイナリストに選ばれショーを開催できたことも、ファッションの道に進む大きなきっかけにもなった様子です。

美術とファッションの中で進む道の選択に揺れ動きながら高校卒業後も美術家として立体作品を生み出し、「1_WALL」というコンテストで入賞した実績があります。

その後「ここのがっこう」でファッションを勉強し、欧州最大のファッションコンペであるITS(International Talent Support)で若干19歳の時に最年少のファイナリストに選ばれ話題となりました。2019年のことでした。

多くはファッションと美術を切り離さず、美術作品であるファッションを生み出している印象です。

今回の丼池繊維会館での展示会”SEAM”は、ITSで発表した作品と、当時制作中のコレクションを繋ぎ合わせた展示なのだそうです。

正面から右手にある”Repair”という作品は、青森の「ぼろ」に感銘を受けられて作られたドレスでITSの出展作品です。八木さんの通われていた「ここのがっこう」テーマが「世界と自分自身の装いの原点に向き合いながら、ファッションを学ぶがっこう」であることからも、八木さんが幼い頃から見てきた家業の板金による修復作業ともリンクするところがありそうです。

江戸時代に売られていた端切れや古着を縫い合わせて着られるようにしたものが「ぼろ」です。普段ドレスを見るのが好きだということですが、青森の美術館でぼろを見た時が今までで一番感動したそう。大変寒い青森での人々の生活は貧しく、何枚もぼろを縫い合わせ、家族でそれを被って寝ていたりもしていました。美術館ではぼろに生活の匂いが残っていることや北の女性たちが集まり手縫いをして作られる製作背景に心が動かされ、貧しさが持つ圧倒的な強さに惹かれた様子です。

またこのRepairは、SNSなどを通じて約100人に縫い子として協力を募り制作した作品となっています。それは「千人針」から着想を得たそうです。「千人針」とは本来、戦時中に女性が集まって布に祈りを込めて糸を縫い付け、お守りとして持たせたものですが、それと同じように、「いろんな人が針を通した布をイタリアに持っていく」ことを大事にされたのだそうです。

実際、グローバルで作品を発表する中で、日本独自のルーツへの回帰が作品に力を持たせることを実感し、世界で勝負するには日本独自のものを打ち出すことが大事だと語られています。

筆者は初め、華やかに着飾る一般的なドレスにはない物悲しげなニュアンスは一体なんなのだろうと思っていました。作品背景や製作過程に、日本の歴史や習慣が落とし込まれていることが希少で、ドレスが持たせるファンタジーな世界に、日本のある時代の光のみならず影の部分も純真な心で素直に表現されるところが面白いと筆者は感じました。

今ある便利な暮らしと違って、ぼろが活用されていた時代の、厳しい暮らしの中で幾人もの人が糸を通して重ねた苦労や家族と暖かく過ごしたいという切実な思いの重さ、その歴史の厚みが、このドレス一着からも感じられるような気もしてきます。

 

もう一方、こちらのピンク系のドレスは、ある処分市に大量にあったウエディングドレスや晴れ着の生地を何層にも重ねて作られています。「さまざまなルーツをもった生地を形にする」といったテーマがあるそうです。

筆者はドレスの背景を知らずに見たときの第一印象が少々「重々しくて不気味」だったのですが、まさしく八木さん自身も、「処分市は、役割を終えた晴れ着が幽霊のように見える空間」と感じ、その印象を服で表現したそうです。すでに汚れている生地に、さらに自分で染料をかけ着色しているそうです。

素直にただただキレイだという感想で終止できず、粗末にされたものの恨みが一つの亡霊となって語りかけてくるような、ブラックファンタジーが思い起こされました。

八木さんはあるインタビューで「古着が持つルーツやパワーを更新するかたちで大きな世界観を発表していきたい」、「観るだけでも感動するようなドレスを作っていきたい」、そして「過去にも未来にも刺激を与える良い循環の一端を担いたい」などと語られています。

参照インタビュー記事の一つ i-D
https://i-d.vice.com/jp/article/88a7m5/z-interview-international-talent-support-f

 

今回の展示に合わせて、一点ものの販売用ドレスを準備いただきました(I SEE ALLにて販売)。

陶器作品や過去の作品の記録写真の展示もありました。

 

今後の活動予定は八木さんのInstagramを参照ください。

 

八木華さんのInstagram
https://www.instagram.com/hannah.yagi/

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